人気ブログランキング | 話題のタグを見る

[鉄道]J・ウォーリー・ヒギンズ:「秘蔵カラー写真で味わう 60年前の東京・日本」

[鉄道]J・ウォーリー・ヒギンズ:「秘蔵カラー写真で味わう 60年前の東京・日本」_a0251950_14121289.jpg
 J・ウォーリー・ヒギンズさんの「秘蔵カラー写真で味わう 60年前の東京・日本」(光文社新書)を読了。

 昭和30年代の鉄道や路面電車などの鉄道写真をまとめた新書判写真集。当時の鉄道風景や人々の生活をうかがえる貴重な資料とも言えそうだ。

 著者(撮影者)のJ・ウォーリー・ヒギンズさんは、本書の「はじめに」で自己紹介をしているように、幼いときからの鉄道ファンで、戦後、駐留米軍の軍属として来日し、東京だけでなく地方にも訪れて鉄道風景を撮影し始めた。その後、日本人と結婚、国鉄と仕事をしたあと、一度、米国に帰国した。再来日してからも国鉄でコンサルティングの仕事を行い、国鉄分割後はJR東日本に所属し、現在もJR東日本国際事業本部顧問として活躍中の方である。

 ヒギンズさんが長年に渡って取り続けてきた写真は、現在NPO法人名古屋レール・アーカイブスで管理されていて、雑誌「鉄道ファン」にも一時掲載されていた。本書はその膨大なライブラリーのなかから約400枚近くを選び出し、それぞれの写真について、ヒギンズさんが撮影時のことを回想したコメントを寄せてまとめられている。

 写真は今から約60年前にフィルムカメラで撮影されたものだが、意外に経年劣化が感じられない。もちろん保管方法がよかったのと、書籍化にあたってスキャンした写真画像を調整しているのだろうが、ヒギンズさんはコダックのフィルムだからこそ長期間良好だったという。昭和30年代ではカラーフィルムは高価だったし現像にもお金がかかったはずだし、少なくともカラー写真は日本ではまだまだ普及していなかった時代だったと思う。そうしたなかで高価なコダックのフィルムを入手できたのは軍属という身分が影響していたのかもしれない。いずれにせよヒギンズさんにはラッキーだった。

 昭和30年代、1964年の五輪以前の東京は新宿、渋谷、池袋といったターミナル駅周辺も高層のビル群はなく空が開けている。現在とはまったく違うのどかな風景がそこにある。工事も重機ではなく手作業の場面が多いし、地方に行くと牛や馬の姿も見られる。自分が生まれた昭和30年代はこんな世界だったのかと思うと同時に、懐かしさもこみ上げてきた。

 またヒギンズさんは“路面電車”好きとのことだが、昭和30年代の日本の主要都市のほとんどで路面電車が走っていたのがわかる。モータリゼーションの波が訪れる前は、市内を走る路面電車が重要な交通機関だったのだろう。このあと訪れた高度経済成長は日本を豊かにしたけれどもノスタルジックな風景は失われてしまった。

 昭和30年代に生まれた世代にはタイムスリップした世界を味わえる一冊です。

by kei-u23 | 2019-03-18 14:23 | | Comments(0)