昨年(2019年)はアポロ11号による人類初の月面着陸から50年という節目の年で、その偉業を振り返った映画や著作物が多数刊行された。それらを読むと、アポロ11号やその後のミッションをライブで経験した“アポロ世代”にとって懐かしさを感じる一方で、当時の技術でよく人を月に送り込めたなと思ってしまった。
残念ながらアポロ計画後、アメリカやロシア(旧ソ連)による有人探査は停滞し、月探査も単発で無人探査が行われる程度だった。そうしたなか急速に力をつけてきたのが中国で、近い将来単独で有人探査を行うことを見越して計画を推し進めている。一方、中国の台頭に危機感をもったアメリカも2020年代に再び月を目指すことを発表した。このように現在は月の資源や環境などの関心が高まって再び月に向かおうとしている。
著者はアポロ世代より少し年下の世代の地質や鉱物の研究者で、JAXAの月探査プロジェクトにも携わっている方のようだ。著者によると、本書の目的のひとつは月に関する研究や関連ビジネスのお誘いということらしく、月に関する知識の再確認から始まり、月面の環境、水や鉱物資源について、そして巻末には月の探査・開発に興味をもった人に向けてお勧めの書籍(SF小説も含む)を紹介した「ブックガイド」も含まれている。
アポロ時代、月に向かうのは“探検”や“冒険”という意味合いが強かった。ところが、現在資源や環境の調査をするというのは、人間がもっとも地球に近い天体である月に進出することを十分意識しているからだろう。小学生の時に読んだ少年SFシリーズの挿絵には、月面基地をベースに月を調査する宇宙服姿の人間の姿が描かれていた。いつか人類が地球と月を普通に行き来する時代はやってくるのだろうが、少なくとも自分が生きている間には実現しないだろう。そう考えるとなんだか寂しくなってくる。