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[本/小説]村上 春樹:「一人称単数」

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 村上春樹さんの「一人称単数」(文藝春秋)を読了。6年ぶりの短編集らしい。ちなみに6年前に出たのは「女のいない男たち」でした。帯には「短編小説はひとつの世界のたくさんの切り口だ」とある。著者自信による説明なのかはわからないけど。

 収録されている作品を順に列挙すると、「石のまくらに」「クリーム」「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」「ウィズ・ザ・ビートルズ」「ヤクルト・スワローズ詩集」「謝肉祭(Carnival)」「品川猿の告白」「一人称単数」となる。このうち書名にもなっている最後の「一人称単数」が書き下ろしで、残りは2018年以降の「文學界」に掲載された短編になります。

 各短編をみていくと、「石のまくらに」は学生時代に一夜をともにした短歌をつくっている同じバイトの女の子の話。「クリーム」はピアノ教室に通っていたとくに親しくもない女の子から、ピアノ・リサイタルの招待を受ける。しかし当日会場に行ってみると会場は閉ざされリサイタルなどが行われる気配もない・・。彼女にかつがれたのか?と呆然とする“私”にさらに不思議なことを話す老人と出会うのだが・・。「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」は、架空のレコードのレビューを書いた主人公が、ニューヨークのレコード店であるはずのないレコードを見つけたり、パーカーが夢にまで登場してくる。「ウィズ・ザ・ビートルズ」はビートルズのアルバムを持った一人の少女から、高校時代の初めてのガールフレンドの話になり、遺伝的疾患のある彼女の兄と話したことを思い出す。それから18年後、この兄と街なかでばったり出会うことになるのだが・・。「ヤクルト・スワローズ詩集」はスワローズ・ファンである著者が作成したメモ的な詩を披露している。おそらくこれはノン・フィクションなのだろう。「謝肉祭(Carnival)」は音楽を通じて親しくなった醜女が、実は美男のご主人と詐欺をはたらき逮捕されるという意外なストーリー。「品川猿の告白」では群馬の古い旅館で人の言葉を話せる猿から恋した女性の名前を盗むという話。こちらも最後は意外な顛末が待っている。最後の「一人称単数」は普段は着ないスーツで飲みに行ったバーでの理不尽な出来事である。

 「ヤクルト・スワローズ詩集」以外は現実ではない摩訶不思議な出来事が起きて村上ワールドに引きずり込まれる。読んでいて深夜に放送されているラジオドラマを思い出してしまいました。どう解釈していいのかわからない作品もありますが、「チャーリー・パーカー・プレイズ・ボサノヴァ」と「品川猿の告白」は個人的に好きな作品でした。


by kei-u23 | 2020-08-16 10:23 | | Comments(0)